大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和34年(あ)1253号 判決 1959年10月09日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人小林亀郎の上告趣意第一点について。

窃盗既遂の時期は、その犯行当時の具体的な事情により左右されるのであって、犯行場所の状況、物品の大小、時間関係等各事案の実況によって差異を来すのであるから(昭和二九年(あ)二七〇〇号同三一年六月一九日第三小法廷決定参照)、所論高等裁判所の判例は、いずれも本件に適切でない。そして、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)六七五号同年一〇月二三日第二小法廷判決、刑集二巻一一号一三九六頁、昭和二三年(れ)一一三二号同年一二月二七日第一小法廷判決等)は、いずれも不法領得の意思をもって事実上他人の支配内にある物件を自己の支配内に移したときは、窃盗罪は既遂となるのであって、必ずしも犯人がこれを自由に処分しうべき安全の位置におくことを必要としないとしており、これらの当裁判所判例の趣旨によれば、原判決が被告人の本件所為を窃盗既遂罪であるとした説示は相当であるから、所論は採用することができない。

同第二点は、原審で控訴趣意として主張、判断のない第一審の訴訟手続違反の主張であり(なお、公判調書に簡易公判手続により審判する旨の決定をする前、刑訴規則一九七条の二所定の処置をした記載がないからといって、必ずしも右処置が行われなかったということはできない。また、被告人は第一審第一回公判における被告事件に対する供述において、「事実はその通りです。尚有罪で処断されても異議はありません」と述べているから、-六丁裏-刑訴二九一条の二にいう「有罪である旨の陳述」があったものと認められる。)、同第三点は、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告本人の上告趣意は、判例違反の主張もあるが、その実質は結局単なる訴訟法違反、事実誤認の主張に帰するものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条、一八一条一項但書により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例